自ら売主制限‐手付額・手付金等保全措置
- 建士先生
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宅建業法では、手付について制限を設けています。一つは手付金の額についてです。
もう一つは、手付金を受領する際に保全措置を講じなければならないとしています。
もくじ
手付の額の制限等
まずは手付の額の制限についてです。
手付とは、売買契約を締結した際に買主から売主に対して交付する金銭等のことです。
手付については、民法の手付でも勉強した通り、手付が交付された場合には、解約手付であると推定されます。(手付には証約手付(契約の証しの意味を持つ手付)もあります。契約内容でどのような性質の手付なのかを定めます)よって、宅建業法でも手付といえば、解約手付のことだと思ってください。
- みーこ助手
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手付による解除の方法は、買主は手付を放棄して契約を解除することができます。売主は手付の倍額を償還して契約を解除することができます。
手付額の制限
民法では、手付の額については契約で定めます。ただし、宅建業者が自ら売主の売買契約の場合には、売買代金の額の10分の2(20%、2割)を超える額の手付を受領することはできません。10分の2を超える定めをしたときは、超える部分について無効になります。
たとえば、宅建業者が自ら売主となる1億円の売買契約を締結する場合に、手付を受領する場合には、その手付の額は2,000万円までです。
また、宅建業者が自ら売主となる売買契約で手付を受領した場合には、その手付がいかなる性質のものであっても解約手付となります。もし契約の解除が行われる場合には、買主は手付を放棄して、売主である宅建業者はその倍額を償還しなければなりません。
規定に反する特約は無効
この手付の額の制限等の規定に反する特約で、買主に不利なものは無効となります。
たとえば、受領した手付は解約手付ではないとか、買主は手付を放棄して契約を解除できないとか、買主に不利な特約は無効になります。
(手附の額の制限等)
第三十九条 宅地建物取引業者は、みずから売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して、代金の額の十分の二をこえる額の手附を受領することができない。
2 宅地建物取引業者が、みずから売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して手附を受領したときは、その手附がいかなる性質のものであつても、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手附を放棄して、当該宅地建物取引業者はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。
3 前項の規定に反する特約で、買主に不利なものは、無効とする。
(適用の除外)
第七十八条 この法律の規定は、国及び地方公共団体には、適用しない。
2 第三十三条の二及び第三十七条の二から第四十三条までの規定は、宅地建物取引業者相互間の取引については、適用しない。
手付金等の保全措置
宅地建物の売買において手付の額は数千万になることもあります。もし手付を支払っている場合で、引渡し前に宅建業者が破産してしまったら手付金は戻ってこないかもしれません。
こういったことを防ぐために、手付金を受領する前までに、銀行などと保証契約を結び買主から受け取った手付金等を確実に返せる措置を取っておかなくてはなりません。銀行等は宅建業者が受け取る手付金等の全額について連帯保証するということです。これが手付金等の保全措置といいます。
宅建業者は自ら売主となる売買契約において、原則として保全措置を講じた後でなければ、手付金等を受領することができません。
手付金等とは何か
それでは「手付金等」とはなんでしょうか。手付は手付でしょう、と考えてしまいますが、手付金等の保全措置を講じなければならない「手付金等」とは、代金の全部又は一部として授受される金銭及び手付金その他の名義をもって授受される金銭で代金に充当されるものであって、契約の締結の日以後当該宅地又は建物の引渡し前に支払われるものをいいます。
この手付金等は、内金、中間金、申込証拠金などというような名称で、代金に充当され、契約締結後引渡し前に支払われるものであればすべて含まれます。引渡しと同時とか引渡し後に支払われるものは手付金等に含まれないので注意が必要です。
保全措置が不要な場合
たとえ宅建業者が手付金等を受け取ってもその額が小さければ、被害も少なく保全措置を講じる必要はないと考えられます。
宅建業法では以下のような規定が定められています。
保全措置が不要な場合 | |
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工事完了前の未完成物件 | 受領しようとする手付金等の額が代金額の100分の5(5%)以下かつ1,000万円以下 |
工事完了後の完成物件 | 受領しようとする手付金等の額が代金額の10分の1(10%)以下かつ1,000万円以下 |
買主に所有権移転登記がされたとき、又は買主が所有権の登記をしたとき |
たとえば、宅建業者が自ら売主となる1億円の未完成物件の売買契約の場合、手付金の額が500万円を超えると保全措置を講じなければなりません。また、3億円の未完成物件の売買契約の場合では5%で計算すると1,200万円まで大丈夫のように思えますが、1,000万円を超えているので保全措置を講じなければなりません。
5%(10%)以下かつ1,000万円以下とは、5%(10%)または1,000万円のどちらかを超えればということです。
それでは例題を解いてみましょう。
宅建業者が自ら売主となり宅建業者でない買主と5,000万円の完成物件の売買契約において、手付金として800万円を受領しました。この場合、手付金等の保全措置を講じなければならない。
回答
答えは○です。
5,000万円の10%は500万円です。手付金として800万円を受領しているので保全措置を講じなければなりません。よって正しい。
保全措置を講じなければならない金額
保全措置を講じなければならない金額は、手付金等(内金や中間金)のすべてです。
たとえば、手付金として1000万円、その後、中間金として500万円を契約締結後引渡し前に支払う場合であれば、1,500万円を保全しなければなりません。
それでは、次の場合ではどうでしょうか。
宅建業者が自ら売主となり宅建業者でない買主と5000万円の売買契約において、手付金として1000万円、その後中間金として500万円、残代金として3,500万円を所有権移転登記後に支払うこととした場合には、宅建業者は5,000万円について保全措置を講じた後でなければ受領することができない。
回答
答えは×です。
手付金等保全措置は契約締結後引渡し前に受領する手付金等について講じなければなりません。よって1,500万円について受領する前に保全措置を講じなければなりません。
工事完了の意味
宅地の造成又は建築に関する工事の完了については、宅地の造成又は建築に関する工事が完了しているか否かについては、売買契約時において判断します。
工事の完了とは、単に外観上の工事のみならず内装等の工事が完了しており、居住が可能である状態を指します。
手付金等の保全措置の方法
保全措置の方法は3種類です。
- 銀行等による保証
- 保険事業者による保証保険
- 指定保管機関による保管
銀行等による保証
宅建業者が受領した手付金等の返還債務を負うこととなった場合に、銀行等が連帯保証する保証委託契約を締結し、その保証委託契約書面を買主に交付します。
保険事業者による保証保険
手付金等の額に相当する部分の保証保険契約を締結し、保険証券又は保険証書を交付します。また、この保険期間については、少なくとも保証保険契約が成立した時から宅地建物の引渡しまでの期間でなければなりません。
指定保管機関による保管
宅建業者に代わり、指定保管機関(保証協会等)が受領した手付金等の額に相当する額の金銭を保管することを約する契約し、寄託契約を証する書面を買主に交付します。
指定保管機関による保管は完成物件の契約のときにしか利用できません。よって、未完成物件について保管の措置を講じたとしても、銀行等による保証、または保険事業者による保証保険の措置を講じなければ宅建業法違反になります。