民法‐時効 取得時効・消滅時効
- 建士先生
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宅建試験において時効は出題頻度が高いわけではありません。常識の範囲で覚えておきたい項目です。勉強時間に余裕があれば学習してください。
もくじ
時効
時効とは、一定期間ある状態が継続したことで、その法律効果に対し、権利を取得したり喪失したり法律効果の事をいい、取得時効と消滅時効があります。
時効の概要
時効には、取得時効と消滅時効があります。
たとえば、人の物を使い続けると時効によって自分の物と主張することができたり(取得時効)、何か(お金)を借りたりたりしていた場合は、その返済義務が時効によってなくなったり(消滅時効)することです。
時効の援用・効力
時効は、援用によってすることで効力を生じます。これは、当事者(時効によって利益を受けることができる者)が援用(時効によって利益を受けることを主張すること)によって時効の効力を生じます。また、援用は、当事者の他に、債務者や保証人などもすることができます。
- ゆい
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時効によって利益を受けるためには援用が必要なんですね。
また時効の効力は、その起算日に遡って効力を生じます。たとえば、長年の間、建物を占有していて、時効が成立したとします。
この場合、起算日に遡って効力を生じますから、時効成立の日から所有者となるのではなく、占有し始め時効のスタート時(起算日)から所有者だったことになるということです。
- みーこ助手
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時効の援用は保証人のほか、物上保証人や抵当不動産の第三取得者もすることができます。
時効によって利益を生じるからです。
時効の利益の放棄
時効の利益の放棄とは、時効によって利益を生じる者があらかじめ、「時効によって受けることができる利益を放棄します」とすることです。
このようにあらかじめ時効の利益を放棄するような契約や規約をすることはできません。このような契約は利益の放棄に関して無効です。ただし、時効完成後の時効の利益の放棄はすることができるとしています。
時効の中断事由
- 請求
・裁判上の請求
・支払督促
・和解または調停への出頭
・破産手続等への参加
・催告(6ヶ月以内に上記のいづれかまたは差押え等をしなければならない) - 差押え、仮差押え又は仮処分
- 承認
時効は上記の事由により中断します。時効の中断とは、時効期間の進行がリセットされることをいいます。たとえば、時効があと1年で成立するというときに、請求や承認をすると時効が中断され(リセットされ)再び時効が進行し始めることになります。
請求
請求とは、たとえば、「お金を返せ!」ということです。しかし、ただ単に口頭で言っても効力を生じません。「返せ」という催告をした後、6か月以内に裁判所に訴えを起こす必要があります。
請求には、裁判上の請求、支払催促、和解及び調停の申立て、破産手続参加等があります。また、裁判所に訴えて勝訴しなければ時効の中断にはなりません。
承認
たとえば、貸金債権を有している債務者が支払期限の猶予を求めたり一部の弁済や利息の支払をした場合など、自己の債務の存在を認めると承認したとみなされ時効は中断します。
承認は行為能力または権限があることを要しません。ただし、管理能力が必要です。よって、未成年者、成年被後見人は承認をすることができません。また、被保佐人、被補助人については管理能力を有します。そのため承認をすることができます。
たとえ、未成年者、成年被後見人が承認したとしても、その行為は取り消すことができ時効が中断しなかったことになります。
取得時効
取得時効とは、他人の物を一定の期間、占有することにより所有権等を取得できることができる制度です。
所有権等の取得時効
時効によって所有権等を取得するためには、「所有の意思をもって」「平穏に」かつ「公然と」他人の物を占有しなければなりません。
取得時効は占有する者が悪意でも、善意有過失でも認められています。
悪意、有過失、善意無過失の場合の取得時効の期間 | |
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時効完成の期間 | |
善意無過失 | 10年間 |
上記以外 | 20年間 |
※善意なのか悪意なのかは、その占有の開始の時点で決まります。占有の開始の時点で善意無過失であれば後に悪意になったとしても10年間で時効は完成することになります。 |
- ゆい
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取得時効は悪意であっても20年で時効が完成するんですね。
- みーこ助手
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「所有の意思をもって」とは、自分の物として占有することをいい、単に借りて住んでいるという場合は含まれないことに注意しましょう。
時効取得できる権利
時効によって取得できる権利には、所有権、地上権、永小作権、地役権、賃借権などがあります。また、時効取得のできない権利には、占有権、先取特権、抵当権などがあります。
取得時効の中断
取得時効は占有者が占有を中止するか他人によってその占有を奪われたときに中断します。
占有の承継
占有は承継することができます。承継人は自分の占有のみを主張するか、又は自分の前の占有者の占有を併せて主張することを選択することができます。もし、前の占有者の占有を併せて主張する場合は、その瑕疵も同時に承継することになります。
たとえば、Bは物件を所有の意思をもって平穏にかつ公然と8年間占有していました。その後、BはCに物件を譲渡すると、占有を承継することができるため、Cは前の占有者であるBが8年間占有していたのであと2年間で取得時効を主張できることになります。
この場合、Bが善意無過失の場合なので、取得時効の完成の期間10年間です。もしBが悪意または過失がある場合は20年間になり、Cはあと12年間の占有より取得時効の主張ができます。
代理人による間接占有
たとえば、Bは物件を所有の意思をもって平穏にかつ公然と2年間占有していました。その物件をCに8年間賃貸した場合、Bが善意無過失の場合は取得時効を主張することができます。
賃貸により他人(代理人)に占有させ、直接自分で占有しなくとも取得時効は主張できるということです。
相続と新権原
BはAの物件を借りていました。Bが死亡によってCは相続により取得したとして利用していました。
この場合、Cは単に賃借人の地位を承継したにすぎないため、取得時効の「所有の意思をもって」という要件が欠けることになります。しかし、Cは相続を機に新権原によって「所有の意思をもって」占有をし始めたとも考えられるため、所得時効を主張できる場合があります。
時効完成
時効完成前の第三者との関係
たとえば、A所有の土地の時効の進行中(Bが占有している)にAがCに土地を売渡し、その後Bが時効取得した場合には、Bは登記がなくても第三者Cに所有権を主張することができます。
時効完成後の第三者との関係
時効完成前と違い、時効完成後では、登記をしなければ、第三者Cに対抗することができません。この場合は、Aを基準にBとCが二重譲渡の関係と同じような状態になるからです。
時効完成 第三者との関係 | |
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時効完成前の第三者との関係 | 時効完成後の第三者との関係 |
登記がなくても時効による取得を主張できる |
先に登記をした方が勝つ |
消滅時効
消滅時効とは、売買代金債権や貸付債権などの債権を一定の期間行使(債権などの場合は支払い請求など)しない場合に、その権利が失われる制度の事を言います。
消滅時効の進行
消滅時効は権利を行使することができる時から進行します。時効消滅となる権利(債権、抵当権、地上権、地役権など)は消滅時効の起算点(権利を行使することができる時)から一定期間が経過すると時効が完成して権利が消滅します。所有権は消滅時効かかりません。
消滅時効の進行と起算点 | |
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消滅時効の起算点 | |
確定期限付債権 | 期限が到来した時 |
不確定期限付債権 | (不確定)期限が到来した時 |
停止条件付債権 | 条件が成就した時 |
期限の定めがない債権 | 債権が成立した時 |
債務不履行による損害賠償請求権 | 履行請求ができる時 |
不法行為に基づく損害賠償請求権 | 損害が発生した時 |
確定期限付債権
確定期限付債権とは、あらかじめ期限が定められた債権のことです。たとえば、「□年○月△日までに貸したお金を支払う」と言ったように期限が決められている債権の事です。
不確定期限付債権
不確定期限付債権とは、将来到来する期限について不確実であるが必ず発生する債権のことをいいます。たとえば、「親が死んだらこの土地を差し上げます」と言ったような、必ず発生することではあるが、いつ到来するかわからない場合のことです。
「あなたの親が亡くなるまで、この家を賃貸してもいいですよ」と言った債権の場合、法律行為の効力が消滅する期限の事を終期といい、その終期が到来した時に債務は消滅することになります。
停止条件付債権
停止条件付債権とは、不確定期限付債権と違い、将来到来する期限について不確実であり発生しない場合もある債権のことをいいます。たとえば、「あなたが宅建試験に合格したら100万円をあげるよ」と言ったようなことです。宅建試験に合格するかしないかは不確実です。この場合、合格すると条件が成就することになり法律効果が生じます。
また、「あなたが宅建試験に合格するまでこの参考書を貸しましょう」とした場合は、解除条件付債権ということになります。条件の成就により、債務が消滅するということです。
期限の定めがない債権
期限の定めがない債権とは、その言葉通り、期限を定めない債権のことです。代金支払期限を定めない債権や債務不履行による損害賠償請求権、不法行為に基づく損害賠償請求権などです。
たとえば、交通事故により、相手方に怪我をさせてしまったりした場合、損害が発生したときに効果を生じさせます。
時効の期間
債権または所有権以外の財産権は一定期間に権利を行使しなければ時効によって消滅します。
所有権が含まれないことに注意しましょう。
- みーこ助手
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所有権に関しては、消滅時効にかかりません。例えば、長い期間使用していない土地があったとしても、その土地の所有権が消滅時効にかかることはなく、所有者は所有者のままです。
消滅時効の期間 | |
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時効完成の期間 | |
債権 | 10年間 |
債権又は所有権以外の財産権 | 20年間 |
その他の時効の期間
消滅時効には短い期間で時効が成立する場合があります。これを短期消滅時効といいます。
短期消滅時効でも、訴えを起こし確定判決によって確定すると、その時効期間は、確定判決の時から10年になります。